コンクールについて


僕がこれまで合唱を続けてきた上で、もっとも重要な目標のひとつは「全国大会に出場すること」だった。僕がコンクールに一番情熱を注いでいたのは高校生のころだと思う。そのころの東京都大会はNコンも朝コンも全国行きの切符をあるひとつの高校が独占していた。その高校は当時あまりにも他と一線を画したレベルの高い演奏をしていたため、僕の学校の合唱部の連中の大半は半ば戦意を喪失していた。


僕はコンクールや全国大会に強い憧れを抱いていて、また仲間もはじめのうちは同じであったように思う。しかし練習を重ねれば重ねるほど、自分たちと彼らとの実力の差がよりはっきりと理解できるようになるわけで、仲間たちは次第に「全国に行く」「都で一番になる」という目標を放棄するようになった。そして高校生当時の僕にとってはそれがとても不満だった。


大学では非コンクール系の合唱団に所属していたためコンクールには出場しなかった。しかし大学時代に知り合った女性に、高校時代朝コンAグループで全国に出場したという子がいた。その子とは少し一緒に歌ったりもしたが、見るからに音楽に愛されているタイプで天性の才能にあふれていた。


その子に全国大会について聞いたところ、「全国大会は特別だった。会場中のみんなが“いい演奏をしよう!”という空気に満ちていた。」と言った。才能にあふれるその子がそういうことを言うのがとても意外で,僕のような平凡な才能しか持ち合わせていない人間からするとますます全国大会への憧れが膨らむばかりであった。


(つづく)