お客様について


マチュアの団体でも、「お客様のために」という言葉はよく使われる。単にプロを気取っているだけなのか、ほんとうにお客様のことを考えているのかは人それぞれ、ケースバイケースだと思う。私もよく「お客様のために」と口にしていると思う。


とはいえ私はプロの歌手でもなければ歌が仕事なわけでもないので、プロの方がいう仕事としての意味での「お客様のために」とは根本的に違う。


私は音楽が好きだからやっているわけであって、目的は音楽なので、必ずしもお客様がいないと私の音楽活動がなりたたないとは思わない。また技術的にもわざわざ人様に聞かせるレベルのものでもないので、わざわざ舞台に立ちお客様に歌を聞かせる意味は基本的にはないと考えている。


しかしせっかく稽古を積んでいるのだから、お客様に聞いてもらえたらやはりうれしいし、何よりもお客様が来てくださる本番があるほうが稽古をしやすい。アマチュアの活動においては、「お客様のために演奏者が演奏する」というよりも、「お客様が演奏者のために来てくださる」とう側面が非常に多いと思う。


この関係に気づかずに、単純にプロの方と同じような「お客様のために演奏者が演奏する」というスタンスで「お客様のために」という人もアマチュア楽家の中にはいる。実力的にかなりすばらしい方であれば、アマチュアの方でもそのような態度でも説得力を感じるが、大方大半のアマチュアの方の場合は、なんだか実態とのギャップを感じてしまう。


私が「お客様のために」というのは、わざわざ聞きたくもない下手な音楽を聞きにきてくださる方に対して、せめて失礼にならないよう誠実に誠心誠意取り組む、という意味で言っているのだと思う。


このような認識で私は音楽に望んでいるが、今回は題材のよさと役得と、先生のご指導の賜物で、終演後ロビーでお客様をお送りしていたところ、思いがけないお褒めの言葉をずいぶん頂戴してしまった。もちろんアマチュアの公演においてのことであり、多分にお世辞も含まれてはいるものの、やはり見ず知らずの方に「良かった」と言われたり握手を求められたりするのは初めてのことで、非常にうれしく感じた。


お客様に対して誠意を尽くそうとした結果、それが通じたのであれば、アマチュアの音楽家としてはこんなにうれしいことはない。と同時に、今後もますますがんばろう!という気持ちも強く感じた。まさにお客様に育てていただいているのだな・・・ということを実感した公演だった。