育てる、ということについて

yamada1642005-04-13



またまた続きになるが、実際に月曜日にお伺いした話の内容がこれまたとても面白おかしく内容もあり、ためになる良い話だったので簡単に趣旨を紹介してみたい。


その方は学生時代から乗馬がご趣味で、今でも乗馬クラブに所属し週末などしばしば馬に乗りにいくという。僕は乗馬のことはまったく知らなかったのだが、どうも単純に乗りこなす能力というわけではないようで、まず馬との信頼関係の構築から始まり、コミュニケーションをとりながら少しずつ技術を覚えさせていくのだという。競技の本番で乗りこなす技術の勝負であると同時に、その馬をいかに育てるか、というゲームでもあるのだ。


調教のはじめはまず馬と騎手との関係を馬に理解させるところから始まる。この段階で反抗的な馬には厳しく接することで、騎手の言うことを聞くというとりあえずの認識を馬に与えるのだという。


それから技術の訓練が始まる。はじめは簡単なものから、徐々に難しくしていく。成功すれば誉める。ある技術を10回行わせて、7,8回できるようになれば次の段階に進む。次の段階も10回中5,6回もできるようになればまた次の段階に進む。


技術のレベルはだんだん高度になっていくので成功率が下がるのはある程度仕方のないことだ。馬とのコミュニケーションが良好になってくると、馬も成功する喜びを理解しはじめどんどん積極的になり、訓練は良い循環に入っている。馬もやる気に燃え、より高度な技術に挑戦するようになる。


そうすると一見好調に見えるが、実はここに落とし穴という。というのは、次から次へと高度な技術に挑戦していくに従い、やがてその馬がどうしても超えることのできない壁に到達してしまう。馬はそのときやる気に満ちているのでものすごいエネルギーでそれに挑戦する。しかしどうしても超えられないといったときに、その馬は大変な挫折を感じるのだという。やる気に燃えて自分から積極に取り組んでいるときの挫折はものすごく大きいのだ。それはしばしばその馬のやる気をゼロにしてしまう。あるいはひどいときにはマイナスにしてしまう。


この状態に一度陥ってしまうと、もはや馬は何もする気がなくなってしまうのだという。調教をはじめる前の反抗していたときよりもさらにマイナスで、騎手に対して無反応になり、ひどいときには食事もとらなくなる。これはもう一つのノイローゼである。この状態からもとの状態に戻すためには、今まで調教していた時間すべての合計よりも、さらにその倍以上の時間がかかるという。


ではこういう状態を招かないようにするためにはどうすればよいのか?それは、馬がいよいよやる気を出してきたときにこそ、逆に前に進むのではなく後ろを振り返り、もう一度簡単なところからやり直すのだという。そうすることで馬に「自分は何がどこまでできるのか」「自分ができないことではなく、自分ができることは何なのか」を強く印象付けていくとともに、はじめ10回中7,8回の成功率だったものを9〜10回の成功率に高めていくことでしっかりと地力を養い、その上で改めて次のレベルに挑戦していくのだという。


これは馬も人間も似たような部分がある。もちろん人間の場合は言葉である程度のフォローができるが、本当に前向きな気持ちで努力しているときの挫折がときにきわめて重大なダメージになりうる、という心理などはまさに人も動物も同じなのだろう。


会社の人事や教育も同じであるとその方はおっしゃっていた。まさにそのとおりだと思う。そしてもちろん、合唱の活動をしていくうえでもまったく同じことが言えるだろう。