Xについて


B'z NEW ALBUM 2曲目は「X」。宣唱とも呼べる「THE CIRCLE」が終わるといよいよアルバム本編の開始となる。


「X」はB'zのアルバムのスタートにふさわしいアップテンポのヘビーロックナンバーだが、過去のアルバムスタート曲とは違った斬新な手法が用いられている。それはその独特の和声空間に象徴される。


というのも1曲目「THE CIRCLE」の歌い出しはG-G#-Hが絡むおおよそロックばなれしたエスニックな和声が印象的だったが、「X」の歌い出しはD♭-Cの絡みから始まるのだ。


こうすることで1曲目で染み込んだG-G#-Hの絡みがいやがおうにも連想され、時間差和声とでもいうべき不思議な和声空間が広がる。ロックで現代的な和声を使うと得てして聴きにくさが助長されてしまう場合が多く、本来の音楽的意図が伝わらない場合がしばしばあるが、それをこのような方法で解決することで目指す音楽を表現しているのだ。


このような音楽が実現するのはもちろんその卓越した音楽構成能力・作編曲能力、そしてアルバムという演奏形態に対する深い理解があってのことだが、何よりも僕が驚愕するのはその演奏力、特にヴォーカルの力だ。


というのもこの試みは、当然1曲目のG-G#-Hの和声空間を強烈に印象に残すことに成功して初めて成り立つものである。そしてそれを実現させているのは、ほかならぬ稲葉浩志さんのヴォーカルの力なのだと思う。


僕の友人にも「稲葉さんは、かつてのややハスキーがかったロックボイスのほうが好きだ」という人が大勢いて、僕もそれはとても良くわかる。しかし今の共鳴の強い豊かな発声も溜まらなく好きだ。そしてそれをロックらしい演奏に十分に生かしている稲葉さんは本当に心の底からのロックシンガーなのだと思う。


曲のストーリーとしてはB'zお得意のポジティブでエネルギッシュなエンカレッジソングだ。人は退屈を嫌い、喧嘩とキスをあみだした・・・このアティチュードを貫いて生きていきたい。


エンカレッジソング系といっても、当然過去のナンバーとは色彩が大きく異なる。それは上述の和声空間から延々と引きずるやや陰りのある世界で、B'zの二人の年齢に伴う変化や、混沌化・無秩序化が進む時代の流れを象徴しているかのようだ。


そんな「今のB'z」がしっかりと伝わってくるナンバー、それが「X」だ。