自分たちの本番について


そしていよいよ自分たちの本番である。我々の演奏は最後の合同演奏を除いてはプログラムの最後ということで、自分たちの出番を待っているだけで結構疲れてしまうという部分があった。


僕は自分自身の練習不足や技術不足のせいで、かなりコンディションに左右されるほうだ。本番前に2時間も座って演奏を聞いていたのではとてもじゃないが声は出ない。客席が超満員だったこともあり、自分たちの出番が始まる30分くらい前にはロビーに出て体操したり体をほぐしたりしていた。


また今回の本番には「本番直前リハ」がなかった。コンクールではないので仕方がないという部分もあるが、良い演奏をするという観点からするとこれはとても困る。


ところが館内をうろうろしていると、「演奏中に荷物などをおいておいて良い場所」というのがあり、そこが物理的には防音構造の練習室であったためここで声だしをすることができた。これはたいへん助かった。縞や君と二人で2,3分だろうか、声だし・軽くメロディーを歌ったりして本番待機場所へ移動した。


そしたら声だしに夢中になりすぎて楽譜を練習室に忘れた。今日の演奏会は「楽譜出版記念」なので、新刊の楽譜を手に演奏することが基本だ。そのため回りのメンバーも、また他の団の方も原則この楽譜を手に演奏されている。


周りの目を気にする僕としては自分だけ楽譜を持っていないために目立ってしまうことを非常に心配したが、ふと見ると縞や君も楽譜を忘れている。「どうする?」とたずねると「(楽譜なしで)いいよ」という。心強い言葉だ。僕ももちろん暗譜はばっちりで、というか練習の最初のころは「本番原則譜持ち」という前提を忘れておりまっさきに暗譜してしまっていた。


僕は基本的には楽譜を持っていないほうが俄然歌いやすいほうだ。そのため「本番譜持ち原則」を聞いてからは「楽譜をもって歌う練習」をしたほどだ。でもこの土壇場で手元に楽譜がない。これは演奏の神様が「あなたは楽譜を持たないで歌いなさい」とおっしゃっているのだと解釈・確信し、楽譜なしで本番に臨んだ。