本番のあとについて


今回もうひとつ感動したのは、演奏後舞台上手からホワイエに誘導されるわけだが、その時点ですでに我々のたった今の演奏がCD-Rにされて販売されていたことだ。fontecの非常に前衛的な営業手法に一ビジネスマンとしては敬意を感じるが、自分はCDは買わなかった。CDを買って演奏を聞いたとしても、もはやどうにもならない、という心情のほうがそのときは強かった。


雲をつかまされたような心持で着替え、集合写真を取り解散。何人かのメンバーが演奏を録音したり、あるいはCDを買ったりして自分たちの演奏を聞いてみる。そしてそれをみんなに回して聞いてみる。


本番、ステージ上で歌ったときの感触よりも録音はずいぶんましに聞こえる。細かいあらはもちろんあるが、そのときの自分たちに聞こえていた音とは雲泥の差だ。ひとまず本当にひどい台無しの演奏ではなかったことに安堵する。一部の楽観的なメンバーは、結構よい結果がでるのではないか、と期待する。


僕自身はその時点ではそこまで楽観的にはなれない。たしかにひどい演奏ではないが、男声合唱が他を圧倒するためにもっとも重要(と僕が考えている要素)である「声の輝き」が録音にはきちんと入らない傾向が強いことを僕はよく知っていたし、また本当に「輝きのある声」は、どんなにデッドな会場でもその存在をしっかり主張することができる、ということを体験的に知っていたからだ。


それから他団体の演奏を数団体聞く。Aグループシードの「マルベリー・クワイア」さんの演奏においても声の輝きはほとんど感じられない。やはり会場が相当デッドなようだ。


Bグループの演奏も数団体聞く。もちろん、すべての団体がとてつもなくうまいわけではないが、明らかに普通の県大会とは違い底辺のレベルが高い。会場全体の空気が、県大会や市民合唱祭とは少し違ったもののように感じる。


自分たちの演奏の結果が気になることもあり、またそのような音楽的密度の濃い空間にいることに疲れてしまい途中で客席を出る。そしてしばらく歓談したりして時間をつぶす。そして審査発表の時間がやってくる。