音取りについて


僕は合唱の練習においては音取りがものすごく重要だと考えている。「そんなのは当たり前だ」とお考えのひとも多いことかと思われる。しかし現実の合唱団の練習において、十分な音取りの時間が用意されていることは少ないし、それを補おうとする行動を実行している場合も以外に少ないのではないか。


特に社会人団体など、ひととおりの合唱経験のあるひとの集団ともなると「音は自分で取れるよね」とか「このくらいの曲ならなんとか所見で歌えるから、パート練習はなしで」などという光景もよく目にする。


ほんとうに力があり、それでほんとうに音が合うのであればもちろんそれでも良いと思う。またそこまで行かなくとも、そうすることで「音取り能力」「音取りのスピードのアップ」を狙うことも大事だと思う。


しかしやはりきちんと音が取れないのであれば、どこかのタイミングでしっかり時間を取り何回もピアノの音に合わせて繰り返し歌うという練習が必要だと思う。合唱に初めて取り組んだ時の練習法が、実はもっとも大事な練習法なのではないかとさえ思うこともある。


「曖昧な音程だけどとりあえず早く取れる能力」があるひとは合唱経験者には多いが、「ほんとうに厳密に正確な音程で歌える技術」がある人はほんとうに稀だと思う。でもほんとうは、厳密で正確な音程なくしては、和声もアンサンブルも何も有り得ないわけで、ストイックに正確に音をとっていくということは合唱の練習の一番の土台なのだと思う。


「音楽性」や「音楽表現」にばかり目がいってしまう練習や演奏論を良く見かけるが、時になにもなくとも正確な音程とリズムとテンポだけで心から感動できる音楽もある。「物理的な正確性」と「音楽的な豊かさ」両方がそろって初めてほんとうの演奏だろう。


今回の本番のように練習回数が少ない場合はどうしても「音楽性」「音楽表現」中心の練習にならざるを得ないことが想像される。だからこそ、事前にきちんと音取り練習をしておくことが大事だと考え、臨時練習を行ったのだ。早めに手を打つというか。