ザ・タロー・シンガーズさんについて


ザ・タロー・シンガーズさん(http://homepage3.nifty.com/tarosingers/)の演奏会に行ってきた。この団は名前は聞いたことはあるもののその活動の実態はほとんど知らず、今回の演奏会がファーストコンタクトだ。


きっかけは武満徹の「うた」を全曲演奏するから、ということだ。ここ最近僕は「うた」の録音(偉大なるハインリッヒ・シュッツ版 http://www.kamome.ne.jp/gvcs/10405.html)を聞きまくっていて、「うた」を歌いたい、また生の演奏を聞きたい、という欲求がすごく高まっていたのだ。


ザ・タロー・シンガーズさんはやはりプロの合唱団というだけあってその声の響きの安定感は抜群のものがあった。どうやらメンバーの大半は大阪音大の方らしい。そのためか声楽出身の人たちの合唱にしばしば見受けれられる「個々の声はすばらしいがパートが1つになっていない、またパート間のハーモニーに若干ずれがある」という現象が起こっていた。しかし声はすばらしい。


僕の考えでは、ハイレベルな合唱には主に「声楽系」と「合唱系」があって、前者はタローさんのようなタイプの団であり、後者は菊華アンサンブルさんのような団であると思う。音楽表現の技術の方法論の問題であって、どちらが優れているというものではないが、曲によっては声楽系のほうがよかったり、合唱系のほうが良かったり、ということはあるかもしれない。でも大部分は好みであろう。


「うた」は、僕の中では声楽系でも合唱系でもない。というのもこの楽曲にはかなり多くの音楽的要素が盛り込まれていて、声楽的な歌唱も合唱的な和音進行も両方必要とされていると思う。高度で音楽的密度の濃い曲だと僕は思う。


タローさんの声は「うた」にはとてもあっていると思う。多声に分かれるところでもしっかり各音が聞こえてくるし、旋律もしっかり流れていたように思う。


個人的に思ったのは、ややテンポの速い演奏がめだったかな?ということか。まったく僕の個人的な好みになってしまうが、「小さな空」や「島へ」や「明日ハ晴レカナ、曇リカナ」などはもっとしっとりゆっくり歌ってほしかった。


ベストは「さくら」だったと思う。演奏後、「ブラボー」と拍手が起こった。導入部と終曲部のヴォカリーズが特に秀逸で、タローさんの声の個性の良い部分がとてもよく生かされていたと思う。これ以上の「さくら」は、生涯聞くことができないかもしれない。


全体としてはかなり良い演奏でレベルの高い演奏だったが、有名でお気に入りの曲だけに聞く側としてはかなり贅沢になってしまっていて、また力のある団だからこそ「もっとこういうふうに演奏してほしい」などと考えてしまう。人間の音楽への欲求はほんとうに無限できりがないものだ、ということを再確認させてくれた演奏会だった。