椿姫1 ソリスト練習について


突然椿姫に役付きで参加することになった私だが、合唱はともかくオペラの活動はまったくの素人である。もちろん音大出身でもなく、声楽としてきちんと練習したこともない。技術や経験もさることながら、「オペラ業界における一般常識」がまったくないことがもっとも不安だった。


練習も、私をお誘いしてくれたピアニストの方に言われるまま、指示された日時に指示された場所に行くだけであった。それがなんの練習なのかよくわからなかったが、とりあえずいけば何とかなるだろう、というくらいの気持ちだ。


オペラの練習というものは、どうやら当面の間はソリストと合唱団と楽器とで別々に練習するらしく、私はとりあえあずソリストの練習に呼ばれ、参加した。


ところが小さなアマチュア団体といえども、私以外のソリストの方は大体がどこかしらの音大の声楽科を出られているような方たちで、中には留学経験もおありの方もいて、ほとんどプロレベルの実力と経験をお持ちの方であった。


肩書きにこだわる必要はないのだが、現実問題として切実に私が困ったことは、私自身が初見もイタリア語もできないことだ。ほかのソリストの方たちはとうぜんすらすらと読んで(歌って)いるところでも、私は全然読めない。そのため練習がとまる。これには困った。


幸いというかなんというか、ソリストの方は忙しい方が多いようで、ソリスト練習も私が参加した11月や12月当たりはぱらぱらとしかひとがおらず、早めに練習場に行けば私しかいないこともしばしばあった。そんな時に指揮者・ピアニストの先生に音をとっていただき、何とか少しでも読めるようにしておくというかっこうだ。


予習しようにも本も分厚く量も膨大で、また素人の立場で突然参加したため椿姫の演目全体のことも良くわからず、これは大変なものに参加してしまったというのが初めのころの実感であった。


指揮者の先生は非常に寛大な方で、私がなかなか読めるようにならなくてもおこりもせず辛抱強く練習をしていただいた。私も後になってだんだんわかってきたが、どうやらソリストというものは自分で練習前に音を取って歌詞をある程度読み込んでくるものらしい。もっとも音大の声楽科出身くらいのひとになると初見があたりまえのため、「音取り」という概念はないのかもしれないが・・・・